事例
KION(独)
物理的資産からデジタル・インテリジェンスへ:
KION、NavVis、NVIDIAが連携し実現する産業用デジタルツイン
変化する現場に追いつくための「デジタル循環」アプローチ
現在の工場や物流センターは、従来の計画ツールでは対応しきれないほどのスピードと複雑さで稼働しています。現場は常に変化しており、棚の配置が変わったり、自動化エリアが拡大したりする中で、人や車両が最新の図面とは異なるレイアウトの中を行き交うことも珍しくありません。どれだけ図面管理が徹底されている企業でも、現場とのギャップどうしても生まれてしまいます。
これはテクノロジー導入がうまくいっていないわけではなく、変化の速い現場ではそうしたズレが生じるのが当たり前だということです。
結果として、現場では実務的な問題が生まれます。現状を正確に把握できていないまま、自動化やロボット導入、車両の運用調整、将来レイアウトの検討といった意思決定が進められてしまうのです。さらに、人と自律システムが同じ空間で動く環境では、情報の古さが原因で手戻りや導入の遅れが発生し、見過ごせない安全リスクにもつながります。
この課題に対して、KION、NavVis、NVIDIAは連携し、現場とデジタルを循環させる仕組みづくりに取り組んでいます。まずは現状の施設をそのままデータ化し、それをリアルなデジタル空間でのシミュレーションやAI学習に活用し、そこで得た知見を再び現場の運用に反映していく─そんな一連のサイクルを回すアプローチです。
各社がそれぞれの強みを持ち寄り、役割を分担しています。
- NavVis:現場を高精度に再現するための空間データを提供
- NVIDIA:AI活用を支えるオープンな技術基盤と高性能なインフラを提供
- KION:現場運用の知見をもとにNavVisとNVIDIAの技術を統合、計画・シミュレーション・最適化・可視化に活かせる「現実のデジタル化」を実現
こうした技術や知見が一体となることで、複雑な物流オペレーションを「見える化」し、試行、改善していくための実践的な仕組みが成り立っています。
NavVis:高精度な現場データ取得と信頼できる唯一の基盤を構築
NavVisはモバイルマッピングやデジタルファクトリー・ソリューションをグローバルに展開する企業です。NavVisの技術を使用することで、施設の現場状況を短時間で捉えつつ、ロボット活用や自動化、大規模な計画にも耐えうる精度でデータ化することができます。
NavVis VLX 3を使用すれば、広大な工場や物流施設でもミリ単位の精度で素早くスキャンできます。取得されるのは高密度な点群や高品質な画像、そして現場の“いま”を正確に反映した空間データで、シミュレーションやAI活用の土台として欠かせない情報になります。
そのデータはNavVis IVION上で整理・活用され、デジタルツインにおける「現況(as-is)の基準データ」として機能します。点群や画像、注釈などがブラウザ上で一元管理され、エンジニアや現場担当者、自動化チームが同じデータを見ながら確認・連携できる環境が整います。これにより、その後の計画やシミュレーションを支える、信頼性の高い土台が築かれます。
NavVis IVIONのPoint Streaming APIを使えば、製造業やプロセス産業、物流分野の企業は、必要な点群データだけを効率よく外部ソフトに連携できます。OpenUSDやNVIDIA Omniverseベースのアプリケーションともスムーズに接続でき、既存の環境にそのまま組み込めるのが特徴です。さらにこのAPIはPoint Cloud CleaningやHide OverlapといったNavVis IVION新機能の活用により、常に整理された最新データを取り込めるため、頻繁にレイアウトが変わる現場や再スキャンが多い環境でも、精度を保ったまま活用できます。
NVIDIA:シミュレーションとフィジカルAIを支えるオープンライブラリと高速AIインフラ
NVIDIAは物理ベースのデジタルツインやシミュレーションを構築し、フィジカルAIやロボティクスの設計・テスト・検証を行うために必要な、オープンなライブラリ、モデル、フレームワーク、そして高速なAIインフラを提供しています。NVIDIA Omniverseは産業向けデジタルツイン、フィジカルAI、自律型ロボットの開発を支えるオープンライブラリおよびフレームワーク群です。
NVIDIA Omniverseのライブラリには点群ストリーミングAPIが含まれており、これをNavVis IVIONのPoint Streaming APIと組み合わせることで、KION社は必要なタイミングで必要なデータをデジタルツインに取り込めるようになります。この仕組みにより、現場の大規模な「現況(as-is)のデータ」をもとに、より踏み込んだ分析や検討ができる環境が整います。
NVIDIA Omniverse上に構築された、AI駆動型ロボティクスのシミュレーションおよびテスト向けオープンソース参照フレームワークであるNVIDIA Isaac SimとNVIDIA Mega Blueprintを統合することで、KION社はNavVisから得られたデジタルツインを動的に動く仮想倉庫へと進化させることができます。この環境により、主に3つの重要なワークフローを実現します。
- 施設や倉庫のプランニング:現場の稼働を止めることなく、レイアウトの見直しや保管方法、動線の最適化を試行できます。
- システムのシミュレーションと検証:実際の現場データをベースにしたリアルな環境で、自動化の仕組みや車両管理、オペレーション全体の動きを事前にテストし、妥当性を確認できます。
- ロボット学習と合成データ生成:KION社はNVIDIA Omniverseライブラリ、Isaac Sim、Mega Blueprintを活用し、LiDAR、RGB、深度、セグメンテーションなどのセンサーデータを大量に人工生成しています。これにより、KION社の自律型フォークリフトやAMR向けのAIモデルを効率よく学習させることが可能になります。実機で試す前に、レアケースや複雑な状況をデジタル上で経験させられるのが大きなポイントです。
NavVisの高精度なデータがこれらのワークフローの信頼性を高める一方で、さらにKION社の現場ノウハウが加わることで、シミュレーションが実際の倉庫のリアルな状況にしっかり即したものになっています。
KION:フィジカルAIを実世界のイントラロジスティクスへ応用
KION社は顧客ごとの技術環境やニーズに応じて最適な自動化ソリューションの導入を支援し、グローバルからローカルに至るまで物流のあり方そのものを変革しています。また、NVIDIAのオープンライブラリやフレームワークを基盤に、倉庫自動化やロボッティクス向けの実用的なソリューションと業界知見を提供。産業車両や倉庫自動化、サプライチェーン領域で世界をリードする企業として、施設内でモノ・人・機械がどう動くのかを熟知しているのが強みです。マテリアルフローの最適化から人と機械の協働、さらには大規模な車両群の運用まで、現場特有の複雑さに対応する知見を有しています。
KIONはすでに、NavVisの技術を現場レベルで実践的に活用しています。特に顧客と一緒に検討を進める際には、同社のソリューション・デザインチームがNavVisのシステムを積極的に取り入れています。
倉庫を手作業で計測したり、古い図面に頼るのではなく、まずはスキャンによって現況を把握します。その取得したデータを使うことで、サプライチェーンの自動化プロジェクトの計画精度が上がり、現地作業の手間も減り、チーム間の連携もスムーズになります。シミュレーションやデジタルツインに進む前の段階からすでに効果が出るため、結果として顧客により質の高い提案・成果を提供できるようになります。
NavVisの点群データをKIONのシステムにそのまま取り込めることで、シミュレーションや検証、さらにはロボット学習や合成データ生成に使うデジタル再現の準備が容易になります。こうして精度の高いデジタルツインをベースに、KIONはフィジカルAI、すなわち実際の倉庫の物理的制約やルールを踏まえたAIモデルの開発をさらに推進しています。
これらのモデルを使うことで、チームはレイアウトの変更を検証、自律搬送ロボットや自動フォークリフトの動きを調整、需要の変動や新しい作業フローが現場にどう影響するかを事前に把握できます。さらに、NVIDIA Isaac SimやMega Blueprintを活用したソリューションでは、車両の挙動や自動化ロジック、保管方法、動線パターンなどを、現実に即した正確な物理環境でシミュレーションできるため、現場への導入までの時間を大幅に短縮できます
グローバル物流の未来に向けたクローズドループ型ワークフロー
このワークフローでは、NavVis、KION、NVIDIAの役割がそれぞれ明確で、互いに補完し合っています。NavVisは正確で最新の空間データを提供し、NavVis IVIONがそのデータを信頼できる唯一の基準として管理します。KIONはこのデジタルツインを活用してオペレーションを分析・改善し、NVIDIA Omniverseライブラリを基盤にした構築したソリューションで、その知見をシミュレーション、計画、AIトレーニングに反映させます。そして得られた洞察は現場にフィードバックされ、ループが完結します。
これは、産業オペレーションの大きな変化を象徴しています。倉庫がより柔軟に変化し、自動化が日常業務の中心になる中で、現場のリアルな状況とデジタルシミュレーションが一体化しつつあります。デジタルツインは単なる静的なモデルではなく、アイデアを試し、リスクを最小化し、AIシステムを現場に投入する準備を整える「運用環境」へと進化しています。
こうして生まれるのは、イントラロジスティクスはより柔軟で強靭なものとなり、組織は安心して変化を試すことができ、現実に即した確かな基盤の上で将来のシステムを構築できるようになります。

