事例
Allinq Digital(オランダ)-1
スキポール空港が「Scan-to-BIM」を採用
Allinq Digital社と共にサステナビリティの目標達成を加速
概要
・Allinq Digital社は2019年、スキポール空港のコンペで採択され、同空港でのScan-to-BIMプロジェクトを本格的にスタート
・その後、NavVis VLXと独自開発の自動モデリングソフトウェアを組み合わせたワークフローを導入し、空港内30万㎡以上のエリアを効率的にモデリング。これにより、1㎡あたりのコストを約68%削減を実現
・このScan-to-BIMプロジェクトの成果が評価され、2023年12月にはスキポール空港全体のモデリングを担う新たな契約を獲得
Allinq Digital社を「革新的」と表現するだけでは、その実態を十分に言い表せていないかもしれません。
Leander Goor氏のリーダーシップの下、Allinq Groupの一員として設立された同社は、AEC業界向けにScan-to-BIMをはじめとする高度なデジタルサービスの提供に特化しています。同社のオランダ国内での事業展開に注力するという方針が、労働コストを抑えながら競争力を維持するための先進的な技術活用を推進する原動力となっています。
本ケーススタディは2部構成で、Allinq Digital社の技術革新に迫ります。第1部ではウェアラブル型レーザースキャナーと自動モデリングソフトを組み合わせることで、同社がどのようにScan-to-BIMのワークフローを抜本的に変革したのかに焦点を当てます。
具体例として、アムステルダム・スキポール空港でのプロジェクトを見ていきます。Goor氏率いるチームは、NavVisウェアラブルレーザースキャン技術と独自開発ツールを活用し、BIMモデリングの大幅なコスト削減を実現しました。さらに、従来は空港側が実現困難と考えていたプロジェクトの着手を可能にしただけでなく、将来的なARナビゲーションアプリの導入を見据えた基盤構築にも成功しています。
ケーススタディ:スキポール空港『点群チャレンジ』
Allinq Digital社とスキポール空港の最初の接点は、2019年に空港が主催した”点群チャレンジ”への参加でした。このチャレンジの目的は「異なる時点で取得された点群データを比較することで、どのような価値が引き出せるか」を検証することにありました。空港はオランダ国内の企業を招き、自ら取得した3Dデータの分析・考察を行い、その成果を発表するコンペ形式の場を設けました。対象は当時改修工事が進行していた特定のターミナルでした。
Allinq Digital社はまず異なる時期に取得された2つの点群データを比較し、工事進行に伴う差分を抽出。その結果を元にRevitモデルを更新し、空港が保有する膨大な資産情報の整合性を維持することに成功しました。さらに同社は単なる差分更新に留まらない、より先進的な取組みを提案します。空港内に既に設置されている各種センサーにも着目し、それらを活用することで将来的にモデルを効率よく更新し続ける仕組みを構築できると示しました。
Goor氏は次のように説明しています。
「日常的にスキャンを繰り返すのは非効率であり、データ量も膨大になります。そこで私たちは、NavVisによる一度きりのスキャンを提案しました。」この手法では、初回スキャンから高精度なRevitモデルを構築し、その後の更新は空港内の他センサーを活用して実施します。独自の物体認識AIとDynamoスクリプトを組み合わせることで、変更・追加された要素を自動検出し、Revitモデルへ正確に反映。これにより、資産管理の効率と精度を大きく向上させることが可能になります。
この提案は空港側から高く評価され、Allinq Digital社は見事にチャレンジを成功へと導きました。この取り組みはアムステルダム・スキポール空港との継続的なパートナーシップの出発点となり、革新的手法の確立と高いサステナビリティ目標の実現に向けた第一歩となったのです。
テクニカルな Scan-to-BIM
アムステルダム・スキポール空港では、環境負荷低減の取組みの一環として、施設設備の多くを環境配慮型の代替機器へ更新する大規模な改修が進行しています。この改修計画ではBIMが活用されており、綿密な施工計画を立てることで、空港運営における最重要課題の1つである「旅客サービスへの影響最小化」を実現しています。
その中で空港は、Allinq Digital社に対し、主要請負業者と連携したテクニカルルームのスキャンと、LOD300〜400のBIMモデル作成を依頼しました。
しかし、この作業は容易ではありませんでした。テクニカルルームには電気・給排水・空調といった各種インフラが高密度に集約されており、配管や発熱機器、スプリンクラー、通信ラック、さらには大型加湿設備までが入り組んでいます。そのため作業スペースは極めて限られ、スキャン時にはデータの取りこぼし(死角)が発生しやすいという課題がありました。
加えて、対象となる規模も非常に大きく、空港内には合計で約5万㎡に及ぶテクニカルルームが存在し、各室の広さも100㎡から3,000㎡までさまざまです。それにもかかわらず、作業時間は厳しく制限されており、各部屋に割り当てられたスキャン時間はわずか数時間に限られていました。
従来の方法
スキポール空港側は当初から、従来のモデリング手法では空港運営、特に旅客サービスに影響が出ることを認識していました。
従来の方法では竣工図の作成は手作業に依存します。例えば、配管が1本追加されるたびに、技術者が現地でメジャー測定を行い、手書きで記録し、その後にCADでモデル化するという流れです。
Goor氏は、このプロセスを「理想から程遠い」と指摘します。「エンジニアは変更のたびに図面を更新しますが、この繰り返しは徐々に誤差を蓄積させ、最終的にさまざまな問題を引き起こします。」Allinq Digital社はワークフローのデジタル化によって空港が大きなメリットを得られると確信していました。しかし同時に従来のTLS(地上型レーザースキャニング)では、その実現には不十分であるとも判断していました。
Goor氏は次のように述べています。「この複雑なテクニカルルームをスキャンできる時間は限られていました。TLSでは死角が多く、どうしても時間がかかりすぎます。私たちが重視したのは、旅客への影響を最小限に抑えること。そのためには、何よりスピードが重要でした。」
こうした課題を踏まえ、Allinq Digital社は空港側と連携し、別のキャプチャ手法を検討。その結果、最新世代のウェアラブルレーザースキャナーであるNavVis VLXの採用を決定しました。
NavVis VLXとNavVis IVIONの導入
Goor氏とAllinq Digital社はNavVisの技術に対する深い理解を背景に、このウェアラブルレーザースキャンシステムこそが今回のプロジェクトを成立させる鍵だと確信していました。実際、同社は数年前、スキポール空港”点群チャレンジ”参加後にNavVis VLX 2のデモを実施していました。多くのスキャンサービス企業と同様に、実環境で性能評価を行い、特に通信インフラ案件において屋上アンテナをデータ取得する際のスピードを比較を行いました。
「NavvisVLXはTLSを圧倒的に上回るスピードでした」とGoor氏は振り返ります。「データ品質も期待以上でしたが、決定打となったのはNavVis IVIONの存在です。これがシステム選定の大きな理由でした。競合がハードウェア中心なのに対し、NavVisは“ソフトウェアを軸とした企業”だと感じました。」
さらに彼はこう続けます「「NavVisがプラットフォームを重視していることは、その直感的な操作性からすぐに分かりました。NavVis IVION上で空間データを自由に移動し、その場で寸法を測れる機能は、私たちのプロジェクトにとって非常に大きな価値をもたらしました。」
このトライアルの成功を受け、Allinq Digital社はNavVis VLX 2を3台導入。さらに、ベネルクス地域で初となるNavVis VLX 3も採用し、アムステルダム・スキポール空港のテクニカルルームの大規模スキャンに活用する計画を進めました。
ワークフロー自動化の実現性への確信
Goor氏はテクニカルルームのモデリングに「標準的なBIMワークフローを使った」と説明していますが、実際にはそれ以上の工夫が施されていました。むしろAllinq Digitalの強みはこのワークフローそのものを進化させている点にあります。
まずチームはテクニカルルーム内にステッカーや基準点を設置し、トータルステーションで正確な位置情報を取得。その後、NavVis VLX 3でスキャンを実施し、パノラマ画像を取得しながら障害物の周囲を移動することで、取りこぼしのないデータ収集を実現しました。なお、高さ8mを超える箇所については、必要に応じてTLSを併用しています。
そして、このプロジェクトの核心となるのが、その後のデータ処理です。NavVis IVIONで点群データを処理した後、独自開発の自動セグメンテーションツールに取り込み、点群内の要素を自動的に識別。これにより、従来は手作業に頼っていた工程を大幅に効率化しました。
Goor氏はこう説明します。「点群のセグメンテーションと自社の要素ライブラリをもとにした検出スクリプトを実行し、寸法などの情報をモデルに付与します。そのうえでセクションボックスを作成し、Autodesk Dynamoのスクリプトを使ってモデル配置を自動化しています。この一連の仕組みによって、モデリングのワークフローは大幅に最適化され、Revitモデルをこれまでにないスピードで生成することが可能になりました。」
点群密度、スピード、コスト削減
Goor氏は従来機を上回るNavVis VLX 3の性能に強い印象を受けたと語っています。
「VLX 3は点群密度が大幅に向上しており、複雑なテクニカルルームでも非常に精細なデータを取得できました。さらに、10m以内であれば、1回のスキャンに約5分を要するFAROのスキャナーと比べても精度差はごくわずかです。データ品質は、私たちの期待をはるかに超えていました。」
また、Allinq Digitalのワークフローはスピード面だけでなく、コスト面でも大きな成果を上げています。NavVis VLX 3と自動モデリングを組み合わせることで、スキポール空港におけるScan-to-BIM全体のコストを約68%削減することに成功しました。
もしこのアプローチがなければ、レーザースキャンの活用自体がコスト面で成立せず、空港側は従来の手法に頼らざるを得なかった可能性があります。その結果、工期の長期化や作業増加により、旅客体験への影響もより大きなものになっていたと考えられます。
パートナーシップの飛躍
Allinq Digital社はBIMモデルの納品に加え、NavVis IVIONへの3ヵ月間のアクセス権も提供しました。Goor氏によると、スキポール空港は成果物に非常に高い満足を示し、特にIVIONに強い関心を持った結果、最終的には空港独自のエンタープライズ版サブスクリプションを契約するに至りました。
また空港側は、NavVis VLXの操作性の高さも評価しています。専門技術者でなくても扱える点が大きなメリットとなり、一般スタッフが簡易的なスキャンを行い、そのデータをIVION上で関係者と即座に共有する、といった新しい活用方法が生まれました。その結果、これまでのように複数の業者を呼んで複雑な機材で現地調査を行う必要がなくなり、見積もり作成も迅速かつシンプルに行えるようになりました。
こうした取り組みを通じて、NavVis VLXは空港運営における新たな活用の幅を大きく広げました。
Goor氏は次のようにまとめています。「NavVis VLX 3、IVION、そして当社のモデリング手法を組み合わせることで、Scan-to-BIMのコストを1㎡あたり68%削減することができました。これにより、ターミナルの高精度なデジタルツインを必要とする多くのプロジェクトが、予算面でも現実的なものになりました。この成果を受け、スキポール空港はさらなる協業に向け、新たな課題への取り組みを検討し始めています。」

